大を小で流す。

往往にして、大は小で流します。

タバコにまつわるエトセトラ①

 

 

 

駅前の立食い蕎麦屋の海老天のように申し訳程度の事実を過分な衣で覆った、タバコに関する物語をひとつ。

 

 

 

大学生の頃、サークルの先輩にとにかく胡散臭いヤツがいた。SNSのプロフィール欄でイキるようなヤツだった。friend/positive/sports/photo/drive…詳しくは覚えていないが好きな単語を英語にしてスラッシュで分けて羅列するスタイルのプロフィール欄で、たしか一番最後は・・・/上昇志向、で終わっていた。英語で統一しろよと思ったけれど、細かいことなどどうでもいいのだろうと普段の振舞いからも察する事ができた。

 

ワックスのつけ方だけ妙にうまくて、いつも毛先をツンツンさせながら、写真に写るときは顎を少し上げ顔を少し斜めにし目を細めて口を尖らせるようなヤツだった。「オレバリポジティブやで」といつも明るかったが実際は何も考えていないだけで、2回留年した後に「大阪狭いわ」と言い残して中退し、東京へ去った。そんな胡散臭い先輩Sだが、彼は何故か僕を気に入っていた。

 

僕が就活で東京に行く機会があった時、Sがどこから嗅ぎ付けたのか「東京来るなら会お!泊めるよ!」と連絡をしてきた。迷ったけれどホテル代が浮く事は大きかったから、仕方なく会う事にした。大学の時から僕が唯一損得だけで会う会わないを決めているのに、知ってか知らずかSは何かにつけて僕を誘ってくるのだった。珍しく大阪に雪が降った日、そこまで積もってもいないのに「雪合戦しよや!」と誘ってきたり。

 

1日目の夕方、渋谷のカフェのテラス席で再会したSは曇天の中サングラスを掛けてタバコを吸っていた。「東京の空気とタバコって合うじゃん?ヤニカスだよマジで。うめー。やめらんねー」と言いながらアメスピのメンソールの1ミリを吹かしていた。どうやらSはタバコ吸っているのがカッコイイと思っていて、そんなタバコを吸っているカッコイイ自分をアピールしたいようだった。東京の空気とタバコが合うというのもよく分からなかったが、例えばSが好きなロックバンドのボーカルがライブのMCで言ったとか、何となくそれっぽくてツウぶれるとSが判断してどこかから仕入れた受け売りの言葉なんだろうなぁと思った。それと完全に標準語になっているのも鼻に付いたが、その感覚に懐かしさすら感じた。ミーハーで使う言葉も無意識にコロコロ変えていくのがSの変わらない部分である。

 

Sは「お前も一本吸う?」とタバコを差し出してきた。僕は大学の友達やバイト先の先輩からよく貰いタバコをしていたので、その提案をありがたく受け取った。1ミリのメンソールを吸うのは初めてだったが、僕の口には合わなかった。大量の水で薄めて薄めて作った粉のポカリスエットを飲んだ時のような決まりの悪さで、吐き出される女々しくて貧相な煙と、吸っても吸ってもなくならないアメスピに苛々した。Sはミルクと砂糖をたんまり入れたコーヒー風味の飲み物を飲み干すと、前触れもなく「クラブ行かね?」と誘ってきた。お前に東京の遊び方を教えてやるよ、Sの表情がそう語っていた。

 

僕は行きたくなかったが「奢ってやるから」と言うので、例によって損得を勘定した結果、人生で初めてクラブに行くことになった。Sは謎に気前の良い部分があり、それがかえって胡散臭さの一因になっている。

 

連れて行かれたクラブは恐らく渋谷で一番安くて狭くて汚なかった。そして何かから隠すように暗い店内。流行りのEDMの爆音、その重低音が一定のリズムで身体の奥に響き、心臓の代わりに脈を打つようだった。埃っぽい空気の中を音楽に合わせて青や黄色の閃光がほとばしる。汗とアルコールとタバコの匂いが嗅覚を支配する狭いハコの中で、身をよじって踊り狂うのは人間ではなく動物のオスとメスだった。溢れたお酒でベトベトになった床に一歩踏み入れた瞬間から僕は後悔をしていた。冷徹で過剰な自意識が僕に「ノる」という恥ずべき行為を許さなかった。

 

Sは縦に揺れ顎でリズムを取りつつスミノフを半分飲んだところで顔を真っ赤にして下品に笑っている。その笑顔を見て、僕は置いて行かれたと思った。通勤列車のような人口密度の中で僕は1人ぼっちになった。酔ったSは適当な女を見つけたのか、吸いかけのタバコを無言で僕に渡し人を掻き分けて消えた。タバコを渡された意味が分からなかった。でも音楽にノれない僕は、かと言って「クラブに来てノれないヤツ」と思われるのも耐えられなかった。その逃げ道にタバコは丁度良かった。「お酒を飲んでタバコを吸ってるヤツ」はクラブにいてもおかしくない。僕はそのタバコを吸うしかなかった。

 

 

しかし、僕はタバコを吸おうと口をつけた瞬間、思わずそれを灰皿に投げ捨てた。フィルターがベチョベチョだったのだ。ぬるぬるの両生類を生きたまま咥えるくらい気持ちが悪かった。僕は人混みを押し退けトイレに駆け込み、お酒で口をゆすいだ。そしてそのまま店を後にし、坂の上にあるカプヘルホテルに泊まった。Sとはそれ以来会っていない。

 

 

半年後、僕は数年ぶりに虫歯になった。僕はあの時のSのベチョベチョのタバコのせいだと思っている。

 

 

 

 

悪知恵 料理教室 珍道中

 

 

友人Yは僕に言った。

「料理教室の体験行かへん?」

「ええよ」

僕は料理教室に通う気なんて無かったし、そもそもお金が無いから通いたくても通えない状況なのだけれど、お金が無いから自炊しているし、体験でもちょっとした料理のコツくらい-ーたとえば野菜の切り方とか、調味料のタイミングとかーー掴めたらラッキーで、それと安い食材の顔ぶれは殆ど同じで、だから、日々、その安い、代わり映えしない食材達を炒めて、調味料の力で和風にしたり洋風にしたり中華風にしたりインド風にしたりする食事にちょうど飽き飽きしていたから、そしてまぁ基本的に誘われたら行くっていうのをモットーにしているから、体験に行くことにした。

 

 

一人暮らしを始めたと同時に、初めが肝心、と意気込んで、自炊も始めた。人はみな、新しく買ったノートの最初の数ページは丁寧に字を書くように、自炊を始めて数日は無駄に凝った料理をするもので、僕も例に漏れず、レタスを豚バラで巻いてみたり、ピーマンに肉を詰めてみたり、具沢山のお味噌汁を作ってみたりしていた。でもそんな鼻息の荒い料理を毎日作っていると気付くのである、割りに合わんと。時間が掛かって仕方ないし、洗い物が増えて煩わしいし、めんどくさい。一人暮らしでお金が無い男の実生活が、一つまた一つと非合理性を矯正させ、一汁三菜は見事に一菜のみとなり、その一菜の食材も安い肉と安い野菜を炒めただけのヤツになった。

 

 

お米に関しては、バイト時代の後輩Nさんのお爺さん、いやご祖父様がお米農家らしく、「お米欲しかったら言うてくださいね」というN様の言葉を真に受けて、厚かましくも、お米を無料で頂いたので、毎日、白米がたらふく食べられるだけで幸せだよ、と時代錯誤な感想を抱きながら満足している。

 

 

毎日お腹いっぱい食べられているから、この上ないけれど、やっぱり欲を言えば、たまには違った趣向のオカズが良い。今回の料理教室体験で、何かヒントでも掴んで帰りたい。そう思っていたら、Yからラインが入って、みてみると、

 

 

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「はじめてのじゃがバタ・ブレッド予約しといたで」

 

 

じゃがバタ・ブレッド!?パン作り!?

 

まさかパン作りとは思っていなかった。じゃがバタ・ブレッドを作る過程に、一人暮らしでお金が無い男が自炊する時のヒントはない思い、僕は正直に返した。

 

「もっと役立つ料理が良かった」

 

 

「体験やから選べる料理限られてるねん」

Yは真顔でこう送って来たけれど、限られてるにしても、じゃがバタ・ブレッドはさすがに最初で最後が過ぎるから考えなおしてもらった。僕が求めているのは、料理のいろはであってちりぬるをではない。煮物の基本とか、そういうのが欲しい。数時間後、Yは再びラインを送ってきた。

 

 

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 「<はじめての方限定>ふわふわティラミスケーキに変更しといたで」

 

 

ふわふわティラミスケーキ!?ティラミス!?変更しといたでやなしに、グーやなしに。もっと役立つ料理が良いとちゃんと伝えたはずだ。パンがダメならケーキはもっとダメだということは火を見るよりも明らかである。ラインがバグって、もっと甘いやつが良いに変換されたとしか思えない。

 

 

こんなところでボケは要らないゾとYにビシッと言ってやろうかと息巻いていると、彼はただボケの為に選んだのじゃなくて、正当な理由があると言ってきた。聞いてやろうじゃないかと、体験の僅かな時間で少しでも今後の為になることを学ぼうとしているこの僕を、論破できるものならやってみろと。

 

 

 

 

Y「そもそも一回くらい体験したところで料理が上手くなるわけじゃない。目的はそこじゃないねん。一緒に体験した女の子と仲良くなるのが目的やねん」

 

僕「ふわふわティラミスケーキにしよ。ふわふわティラミスケーキが良い」

 

 

一瞬の出来事だった。気持ちの良い論破だった。目からティラミス。その発想は、なかった。僕とYの下心はガッチリと、それはもう熱い熱い握手を交わした。正当な理由かと問われると閉口するが、この際、それが正当な理由かそうじゃないかなんて、関係ない。

 

 

「『社会人 出会い』で検索したら上から4つ目くらいに料理教室って出てきて、なるほど!て思って」ニヤニヤと語るYは、既に別の料理教室に一人で乗り込み、パン作りを体験済みだった。コイツただ者ではない、と思ったが、考えてみると、料理という共通目的があって距離が縮まりやすいだろうし、料理上手になろうと思って行動に移した女性と出会える、誰かの為にティラミスを作っちゃうような可愛らしい、未来の料理上手を青田買いできるのだ、なるほど、悪くない。

 

 

舞台は[ABC cooking studio]。Y曰く、全国に教室を持つ最大手の料理教室で、その生徒数・若い女性の割合も他の追随を許さないらしい。若い女性と出会うならABCで間違いないゼと鼻高々なYのこの前のめりな姿勢に、僕は感謝しかなかった。当日、2人は意気揚々と教室に向かう。

 

 

教室に入ると、そこは想像以上に女の園であった。エプロン姿の様々な女性が炒めたり、煮たり、パン生地をこねたり。清潔で開放的なキッチンスタジオ、暖色の照明、何より真剣に料理に取り組む眼差しや姿勢が、彼女たちをより美しく演出していた。この中のどなたと一緒にティラミス体験する事になるんだろう…

「俺がボウルを抑えておくから、キミは思いっきり混ぜなッ キラッ」

「おいおい、ほっぺにクリームが付いてるじゃないか、ほらッ キラリンッ」

「さっすが女の子、トッピングちょー上手いじゃんッ キラッ」

シミュレーションは完璧、人の皮を被せた下心が、今か今かとその時を待つ。

 

 

 

「本日担当させていただきます、Mです、どうぞこちらへ」

担当のお姉さんに案内されキッチンに立つと、アレレ、材料がどう見ても2人分しか用意されていない。

「では早速、始めていきましょうか!」

早速始まっちゃうの?男2人で?ティラミス体験が?

「このボウルに卵を3つ割ってくださいね〜」

確実に始まっちゃってる、男2人のティラミス体験が。グループでの体験じゃなかった。僕らの夢は早々に、ものの見事に打ち砕かれた。

 

「今回は何で体験に来てくれたんですか?」

 

「……」

少しの間が空いて、

Y「あの、2人とも一人暮らししてて、料理上手になったら良いなぁって」

 

「そうなんですね!…あれ、でも今日は料理じゃなくてケーキなんですか?」

 

絵に描いたようなギクッが心臓から聞こえた。言えないよ、ケーキの方が若くて可愛い女の子と出会えるかなと思って、なんて言えないよ…

 

Y「…あの、料理教室イロイロ回ってて、この前はパン作りを体験したし、まぁ単純にケーキ作ってみたいなって言うのもあって…」

 

「なるほど〜、最近は結構 男性同士で受けてる人も多いんですよ〜」

 

セ、セーフ?それにしても侮れぬお姉さんだ。愛想良く話を回しながらしっかり営業トークも挟んでくる。

 

「あと、出会いにもなりますしね。あ、ココで出会って結婚した方もいらっしゃるんですよ!」

 

お姉さん、さっきからなんか鋭くないですか、もしかして僕達の下心が見透かされている?見透かした上で、可愛い女の子と出会いたいなら体験じゃなくて、ちゃんとお金払って通わんかい、と釘を刺してきている?僕らは察されまいと、ティラミス作りを楽しみながら、お姉さんを意識していつもより多めにボケたりツッコんだりしていた。あんまりウケることはなかった。お姉さんの指示に従っていると、アレよアレよとティラミスが出来上がった。

 

 

 

完成したティラミスを持ち帰って食べた。何だかヤケにクリームの酸味が強かった。

 

 

 

 

わたしとバレンタインデー

今週のお題「わたしとバレンタインデー」

 

真っ白なスケッチブックを渡されて、先生から「りんごの絵を描きなさい」と言われれば、りんごの果実を描いたり、その断面を描いたり、木に成っているりんごを描いたり、調理されたりんごを描いたりと、色々なパターンを考えて描きやすいものです。しかし、先生から「何でもいいから自由に描きなさい」と言われれば、何を描きましょうか。何だっていいのです。例えば昆布でもいい、武器でもいい、キャベツ、月、キャビンアテンダント徳井義実ミニストップ、プ?プね、プ…プー、、プーさん!…あ、あぁあ〜。

 

いや、言いたいことは、自由って困るってことです。まさにこのブログもそんな感じです。誰に言われるでもなく勝手に始めて、書く内容も一貫したテーマを決めているわけではない、全くの自由です。四方八方窓のない真っ白な壁の部屋にぶち込まれ、真っ白なスケッチブックと鉛筆だけ渡されているのです。ただ、ぶち込まれたのも自分ですが、ぶち込んだのもまた自分なのです。嫌なら辞めればいい、そう思うでしょうが、これがややこしい事に、嫌なわけでもないのです。だって、数少ない読者のアナタが、ブログ待ってるからねって、楽しみにしてるからねって、頑張っているからねって、強くなるからねって、君も見ているだろ、この消えそうな三日月、繋がっているからねって、愛してるからねって、そんな風に歌ってくれてるような気がするんだもの。

 

 

 

 

つまり、とどのつまり、要するに、まとめると、簡潔に言うと、in other words, The point is,

 

 

 

 

「「更新したいケド…書くことなーい!」」

 

 

 

そゆことです。真っ白なスケッチブックがどうとかツラツラ500字くらい使ってほざいてみたけど、4文字で言うと「ネタねぇ」です。この場合「ぇ」はちっさい「え」だから、3.5文字としても良いですか?え、良いんですか!?あざぁす!言ってみるもんだなぁ!…まぁネタがないことをネタにしろっていう、よくあるその場しのぎでもあります。

 

 

恐らく、勢いで始めたは良いが、早々にネタが尽きて途方に暮れている僕のような人間が、他にも沢山いらっしゃるのでしよう。はてなブログは、それを見越して、「今週のお題」たるものを用意してくれていました。なんたる先見の明でしょう。さすがは、はてなブログ。真っ白なスケッチブック機能と、先生のりんごを描きなさい機能をあらかじめ用意してくださっていたのです。

 

 

 

ここは一つ、お題を頂戴する事にしましょう。さ〜て、今週のお題は〜??

 

 

 

 

 

「わたしとバレンタインデー」

 

 

 

 

 

 

 

ほぉ。はいはい、なるほど。2/14も近いですしね。バレンタイン、いいんじゃないですか?うん………。

 

 

 

 

 

 

「ネタねぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

思わず魂の3.5文字が部屋にとどろきました。先生!芋くさい非モテ学生生活を送ってきた僕に、バレンタインに関する甘くて酸っぱいエピソードなどあるはずないでしょう!!まさかお題を貰ってまで書くことがないとは思いませんでした!

 

 

 

靴箱に、机の中に、放課後呼び出されて…みたいな「王道甘酸っぱイチゴチョコエピソード」もなく、いっぱい貰うの分かってたんで学校に紙袋持っていってましたね…みたいな「濃厚ミルクチョコエピソード」もなく、かと言って、本命なんてもってのほか、みんなに渡されるはずの義理チョコすら貰えませんでした…みたいな「カカオ92%本格ビターチョコエピソード」もありませんでした。

 

 

 

本命はないけど義理は貰える、という有象無象の「ほろ苦母からちょっとええチョコエピソード」しかありません。そして言わずもがな、今年のバレンタインも本命を貰える気配はありません。

 

 

 

書くほどの事じゃありませんが、バレンタインに関して一つ思い出したのは、小学校の4.5年の2/14です。

 

 

今までチョコを貰った事が無かった当時の僕は、バレンタインに関心が薄く、その日がバレンタインである事も完全に忘れていました。いつものように登校すると、机の中のお道具箱に、小さいチョコが、ちょ…ちょ、ちょこんと(チョコだけにね!!!!!!!…ええ、もちろん迷いました)置いてあったのです。お道具箱からチョコレートは、棚から牡丹餅だったので大いに喜びました。朝礼で先生が言いました。今日、男の子の机の中にチョコレートがありますが、欲しいですか?と。内心嬉しいけど「別にいらんし」と言いたげな表情でいるその他の男子をよそに、まだバレンタインだと気付いていない僕は立ち上がって、手を高らかにつき挙げ「欲しい!欲しい!めっちゃ嬉しい!」と叫んだのです。買ってくれた女子達は思ったでしょう。ーーコイツ、義理チョコごときでこんなに喜んでやがる…!!ーー

小さくて四角いチョコが個別包装されていて、1パック2.30個くらい入ってて数百円の、あのチョコのたった1個で、狂喜乱舞する少年に女子達は戦慄したかも知れません。

 

その日帰宅して、母にチョコレートを貰ったとき、バレンタインだと気付いた僕は、朝の自分の振る舞いに赤面し顔を歪ませたのでした。

 

 

 

この記事の第一段落ですが、りんご→昆布から始まってるのは気付きましたか?

 

 

運命の出会いは突然にand...

 

お金がない。数百円、数十円の電車賃を浮かす為に大抵の移動は自転車にする。消費期限ギリギリの割引された食パンを買うから絶対に消費期限が過ぎるけれど、カビさえ生えていなければもちろん食べる。クリスマスパーティーに誘われたけれど、交換用の3000円程度のプレゼント代が痛くて買えず、司会に徹した。お金がない。その事実は心を蝕む。焦燥や不安がじわじわと心に穴を開け、その穴を埋める愛のようなものもない。恋人がいない。寒風が心の隙間に吹き荒び、潤いや質量を奪い去ってゆく。いっそこのまま風が吹き続いて、心から一縷の水分をも残こすことなく、スカスカのカサカサになって、ついには風に抗う力さえなくして、大空をたゆたいながらどこか遠くに飛ばされてしまいたい。どこか…まぁどこかというか、ハワイかバリかグァムか、少なくとも沖縄か、常夏の白く輝くビーチに舞い降りて、寄せて返すエメラルドグリーンの波に打たれて少しずつ心に弾力を取り戻して、たまたま観光に来ていた日本人の美人グループ(グループでなくても良い)と仲良くなって、ひとしきりエンジョイした後、一緒に帰りたい。

 

 

 

 

お金が欲しいとはあまり思わないが、クリスマスに交換用のプレゼントを買う3000円の余裕くらいは欲しい。数百円の日用品をいちいちコレは今必要か?と吟味せずに買える余裕くらいは欲しい。そして単純にそろそろ恋人が欲しい。

 

 

もちろんお金も恋人も、手に入る見通しなど皆無だ。しかしこの状況が長く続くのはやはり辛い。何か、解決策はないだろうか。考えた結果、ひとつだけあった。

 

 

 

 

 

 

 

養鶏だ。

 

 

 

ニワトリを養うのだ。苦肉ど真ん中の策ではあるが、考えてみて欲しい。

 

まず卵が手に入るのが大きい。卵は完全栄養食品の代表。しかも、自炊の9割が炒め物の僕にとっては最高だ。一食で食べるには多いけど、二食に分けるには少ない、みたいな微妙な量ができた時、一食目で多めに食べて、二食目は余ったそれを卵で綴じる。すると、見事にカサは増え、おまけに全ての炒め物は丼になる。丼になると洗い物も減るしサッと食べられる。ゆで卵にすると小腹を満たすにも丁度良いし、天然のプロテインにもなり得る。そんな卵が無料で手に入るのはありがたい。

 

そして、ニワトリは生き物である。つまり、ペットになる。もう名前も用意している。トリ太郎だ。恋人の代替案がニワトリとは、少し違うような気もするが、まぁ、動くし、愛情を注げば癒しにならないこともないだろう。本能で動くトリ太郎に対して、人間のエゴで勝手に感情を想像して「腹が減ったか?寒いのか?そうかそうか」と以心伝心した気になってご満悦するのだ。

 

早速インターネットで検索しよう。

「賃貸 ニワトリ ベランダ」

 

こちらがベストアンサーに選ばれていた答えだ。

 

まずは、そのマンションの規約を確認するか、自治会の会則を確認して見て下さい。
私のマンションでは、自治会に申請をしてそれが認可されないとペットは買えません。

恐らく、ニワトリは鳴き声が近所迷惑になる可能性が大きいので、買うことは許可されないと思います。

個人的には、ニワトリの維持費や、防音対策などを考えるより、近隣で新鮮な卵を売ってくれる場所を探すほうが、安上がりな気がします。

 

なるほど。どうやら無理そうだ。そうか、無理か…。そうだよな。はは。再び前途が閉ざされた。あぁ、まだ見ぬトリ太郎よ。僕は浅はかだったよ。

 

 

 

お金がなくて、恋人がいなくて、寂しくても侘しくても、お腹が空く。例の如くもやしと何か安いものを炒めようと近くの激安スーパーに向かった。もやしまで一直線に向かう途中、目の端で一際輝く野菜を見つけた。それは「豆苗」だった。僕と豆苗が対峙した時「あ〜の日、あ〜の時、あ〜の場所で、君に会えなかったら〜」と、脳内で小田和正の「ラブストーリーは突然に」が流れた。もやしの事など忘れて、1パック100円の豆苗を掴みレジに並んでいた。

 

 

 

なぜ今まで思い浮かばなかったのだろう。現状を打開する唯一のアンサーは豆苗なんだ。名前に豆と書いてあるから絶対に栄養が良い。炒め物にも相性が良い。そして何より、カットした根元をもう一度水に浸けておくと、新たに豆苗がにょきにょき生えてくるのだ!無限豆苗である。無料で食べ物を提供してくれる生き物。その点で、豆苗はニワトリとほぼ変わりない。豆苗をペットにすると決めた。

 

 

お金と恋人を求めていた男が回り回って辿り着いた所は豆苗である。何か違う気がする?いや、人生ってのは往々にしてそういう事だ。理想を追い求めて回り回って、辿り着いた所を「見方によっちゃ理想だよな」と自分に言い聞かせるものなのだ。

 

 

早速、買ってきた豆苗を炒めて食べ、根元を水に浸した。ワクワクしていた。パックには10日くらいで成長すると書いていた。そうだ、ペットにするなら名前を用意しなくては。何本、いや何匹か。植物をペットとして扱った事がないから数え方が分からないが、何匹と数えることにしよう。大体100匹くらいはいそうだ。豆苗太郎、豆苗二郎、豆苗三郎、豆苗四郎、豆苗五郎、豆苗マイケル、豆苗ポール、豆苗ジョン、豆苗ジョージ、豆苗シェリー、豆苗アン、豆苗右衛門、豆苗ミランダ、豆苗〜ん、豆苗早苗、豆苗アンダーソン、豆苗マン、豆苗ティガ、豆苗ダイナ、豆苗ガイア、豆苗ジードロイヤルメガマスター、豆苗オーブハリケーンスラッシュ、豆苗・キホーテ、豆苗の空、豆苗イズマイファーザー、豆みょ…いやキリがない。纏めて豆苗ズだ。植物とはいえペットの名前を複数形にするのもなんだが、仕方がない。豆苗ズだ。

 

 

毎日一回、水を換えてやる。それが僕らのコミュニケーションだ。水を換える時、心なしか豆苗ズが「お腹が減ったよぉ〜、新しい水をくれよ〜」と言っているように聞こえなくもない。心の繋がりを感じた。豆苗ズは日を追うごとに成長した。だが、彼らにとって成長とは、自らの死へのカウントダウンでもある。豆苗ズが買ってきた時と同じ高さになった日。僕は、豆苗ズを食べることを決心した。僕は心が痛んだ。植物とはいえ、愛着を持って育てたペットなんだ。ハサミを持つ手が震えた。けれどそんな僕の背中を押してくれたのは、豆苗ズだった。確かに聞こえた。…聞こえた気がした。豆苗ズの「僕達はご主人様の身体の一部となって、生き続けるんだ。今まで育ててくれてありがとう。今度は僕達がアナタを育てる番だよ」という声を…。

 

 

僕は豆苗ズと実家に帰った時に貰ったものの使いあぐねていたイカの缶詰で和風あんかけパスタを作った。

 

 

 

命に感謝。この言葉に尽きる。わずか10日ほどの付き合いだったけれど、僕は豆苗ズを忘れない。ありがとう、豆苗ズ。君の命を、いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、まッず!何これ、クッサ!豆臭?クッサ!!コレ全部食べるんツレぇ〜!

僕の風邪予防

 

朝の天気予報で「西高東低の気圧配置」というワードがすっかり定着した今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 

時候の挨拶が何故か好きで、オリジナルの時候の挨拶を考えるときワクワクします。将来、時候の挨拶職人にでもなろうかしら。そんなことを考えていたら、咳がでました。

 

そう、僕はというと、風邪を引いています。皆さん、体調はいかがですか?僕は、風邪を引いています。当ブログもたまには季節に合わせた記事を投稿してみようなんて思い至りました。

 

この時期は、冬の本番より寒いと言っても過言ではありません。まだ身体が寒さに慣れておらず、この時期に冬の装いをしたら冬本番に何を着るんだ、という謎の意地も相まって、結果身体の芯まで冷えます。朝起きて天気が良ければ、一見暖かそうで、小春日和を期待して、外に出るなり後悔するものです。つまらない意地は捨てて、ヒートテック着ましょう。マフラーの巻きましょう、手袋しましょう。

 

 

タイトルを「僕の風邪予防」にしましたが、これにも少し後悔しています。何故なら僕は、風邪予防をしない派だからです。風邪になったらなったで、何かにつけて「風邪だから」とサボったりするキタナイ人間です。僕は今、言い訳が欲しいのです。頑張らなくて良い言い訳が。

 

 

 

そんな事より口内炎です。僕は口内炎がよくできます。そして口内炎ができるたびに身近な誰かに見せつけます。口内炎はエグいくらい痛いのにもかかわらず何にも与えてくれません。だから誰かに見せて一瞬の話題にするのです。全く心のこもっていない同情を貰うのです。「痛そうぉ〜」「やばぁ〜」それでいい。

 

 

僕の口内炎は大体唇周りか、内頬に現れるのですが、唇周りにできたものを「すすり困難系」、内頬のものを「咀嚼困難系」と体系づけています。「すすり困難系」は麺類や熱いスープをすすろうとして唇を尖らせると、ここぞとばかりに現れてアツアツフードにカミカゼアタックしにいくのです。そして爆死するのは僕です。痛いといったレベルじゃありません。小さい「ツ」が3つ入る痛みです。「イタ!」じゃなくて「イッッタッ!」です。

 

この世には2種類の人間がいます。口内炎がよくできる人間と、口内炎とは全く無縁な人間。口内炎ができない人にとって、口内炎の痛みは想像しにくいでしょう。でも、分かって欲しいのです。どれくらい痛いのかを。

 

そうですね、例えるなら

 

お風呂に入っている間に、Netflixで観たい洋画をダウンロードしておいて、寝る準備を済ましていざベッドで観ようとしたら吹き替えだったときくらい

 


悪ノリの馬鹿騒ぎで自分の周りだけしか盛り上がってないのにも関わらず、自分を世界一面白いやつだと勘違いしている自称クラスの中心くらい

 


いわゆる「美魔女」と言われている人が「えー見えない!すごい若いですね!」というリアクションが返ってくることを分かっていて、鼻を膨らまして「いくつですか?」と聞かれるのを待っているときくらい

 


地震がきたときに好きな女の子を守って一躍ヒーローになるっていう妄想をする男くらい(クラスのヤンキーから守る妄想も同じ)

 


魚の骨が喉に刺さったときの物理的な痛さと精神的なダメージの総和くらい

 


1対1、後半24分でのオウンゴールくらい

 


肌寒い秋の夜に自販機で缶コーヒー買ったら「つめた~い」だったときくらい

 


ハリーポッター見た後に自動ドア開けるときスッと手出して魔法使った感を出すやつくらい(スターウォーズを見た後にフォースで開けるやつに同じ)

 


平均再生回数62のYouTuberが外歩く時一応絶対マスクするくらい

 

片想いの相手が、笑顔で楽しそうに異性と話しているときくらい

 

一人暮らしで貯金が20万円を切ってるのに自転車の後輪がパンクした時くらい

 

一人暮らしで貯金が20万円を切っているのによく履くジーパンのお尻に穴が空いたくらい

 

一人暮らしで貯金が20万を切っているのにiPhoneのイヤホンの調子が悪くなった時くらい

 

一人暮らしで貯金が20万円を切っているのに仕事から帰宅すると朝からコタツを付けっぱなしだったと気づいた時くらい

 

そもそも一人暮らしで貯金が20万を切っているくらい

 

 

それくらい痛いのです。途中果たして痛いのかどうかよく分からない例えもありましたが。

 

 

 

 

今まさしく口内炎があります。折に触れて痛みます。場所は下唇の斜め左。そう「すすり困難系」口内炎です。ちなみに「すすり困難系」口内炎は唇をプリッとするだけで誰かに見せられるので便利ではあります(?)。写真も撮りやすいです。…。撮りました。赤い唇の大地に、我が物顔で居座るクレーターのような白い炎症。この赤と白のコントラスト。ふと思いました。インスタグラムにでもあげようかしら。たくさんいいね!が来るかな、コメントが来るかな、もし来たら少しは口内炎になった甲斐があるってもんです。…くるはずがありません。見た人全員の脳内に一瞬「キモっ」と響き、それ以降思い出されもしないでしょう。信じても良い直感とそうでない直感があることを今、学びました。

 

正確にどれくらいの周期で口内炎が現れるのかは分かりませんが、体感的には月に一回は現れている気がします。チクっと違和感があるような口内炎の赤ちゃんは、不摂生という栄養でグングン育ち、瞬く間に暴君へと姿を変え、大いに僕を苦しめてから、やがて老いて小さくなり、跡形もなく何処かへ去っていきます。全盛期の痛みは2.3日続きます。僕は口内炎のできている日を「あの日」と呼んだり…と言うような冗談はよろしくないので控えさせて頂きます。

 

 

えっと、何の話でしたっけ。

 

あ、僕の風邪予防だ。

 

早めにパブロンを飲めば良いと思います。

 

 

僕はもう「世界で一番旨い食べ物」を食べることはできない。

 

 

世界で一番旨い食べ物は「カップヌードル ミルクシーフード味」である。

 

 

シーフード味も勿論旨い。しかし、シーフード味はミルクシーフード味への序章に過ぎない。シーフード味の完全体はミルクシーフード味なのだ。シーフード味はシーフードエキスの強烈な旨味と塩味がいささか刺々しく舌に突き刺さる。そこにミルクの羽衣を纏わせ、優しく、まろやかな舌触りにすることに成功したのがミルクシーフード味だ。その舌触り、喉越しはまるで絹だ。そのことから日清の商品開発部は完成当時、ミルクシーフード味と名付けるか、シルクシーフード味と名付けるかで一悶着あったとかなかったとか。そんな噂があるとかないとかなのである。

 

 

そんな訳でカップヌードルのミルクシーフード味が世界で一番旨い食べ物なのだが、タイトルで僕はもう食べられないと書いた。それは何故か。

 

ミルクシーフード味は期間限定の味だから?否、確かに期間限定の味ではあるが毎年寒くなるとコンビニで発売されている。もう二度と手に入らない、という意味ではない。

 

 

ただ単にミルクシーフード味を作って食べるだけでは、それは単なるミルクシーフード味なのだ。つまり、ミルクシーフード味をポテンシャル以上のモノにする条件、環境があるということで、その条件や環境が、もう再現できないのである。

 

 

一言でまとめると、それは青春だ。青春がカップヌードルのミルクシーフード味を天下無双へと至らしめる。

 

 

 

高校時代。季節は、冬。

17時の暗さにも驚かなくなった頃。

ハードなトレーニングをこなした日の部活帰り。

身体に重く残る疲労感。

同じ方向の部活仲間とふざけながら自転車で坂を下る。

何が楽しいのかずっと笑いあっている。

お腹が空いている。

空いてるなんてもんじゃない。

空腹で死にそうだ。

そして防寒具を容赦なく突き抜けてくる寒気。

手袋の中の指先はちぎれそうなくらい冷たい。

光に集まる虫のように、気がつくといつものコンビニに吸い寄せられている。

カップヌードルのミルクシーフード味を購入。

お湯を注ぐ。

コンビニの前で待つあの永遠の如き3分。

麺や具に水分が戻り、香りが立ってくる。

あぁ、今すぐ食べたい!

タイマーを確認するが、まだ1分45秒。

もしも僕がアインシュタインだったら、この無限に思える3分から相対性理論を着装したに違いない。

ついに3分のカウントダウンが終わる。

口と手を使って割り箸を割るのがいただきますの合図だ。

しかしあと少し、焦らされる。

混ぜなければならない。

混ぜている時、脳は、舌は、数秒後の幸せを知っている。

もの凄い勢いで唾液が溢れ出る。

その唾液をゴクリと飲み込み、よくスープに絡ませた縮れ麺をズルズルズルっと一気に胃に放り込む‼︎

 

空腹にぶち込まれるジャンクフードの旨さは改めて表現しなくともご存知だろう。

加えて凍えた身に沁み渡るミルクの温もり。

その旨さ、天衣無縫。

 

ちょこんとウニを乗っけた肉寿司よりも、黒トリュフを贅沢に削ったクリームパスタよりも、鮑をとろとろに煮たやつよりも、最高級A5和牛のシャトーブリアンよりも、4代目の職人が江戸時代から代々受け継がれている秘伝のタレにつけて備長炭で焼き上げた鰻の蒲焼よりも旨い。全部食べたことはないけど分かるのだ。

 

 

極限状況で仲間と食べるカップヌードルミルクシーフード味は、もはや食事を超えて「喜び」だからだ。人間が生物として持っている「生きる」という本能にダイレクトに伝わるのだ。

 

 

今、何の苦労もなく、ただ腹が減ったという理由で食べるカップヌードルミルクシーフード味は、勿論旨いが、その旨さはちょうど「海水浴ではしゃいで昼過ぎに休憩中友達が食べ始めたポテトチップスうす塩味の一口ちょーだい」くらいである。

 

 

 

 

あぁ、書いていると思い出してきた。あの感動を。ここはしばし、僕に感謝させてください。

 

 

ありがとう、人口添加物。

ありがとう、カップヌードル

ありがとう、日清食品

ありがとう、安藤百福

日清食品の創業者。「カップヌードル」の開発者として知られる。

ありがとう、まんぷく

連続テレビ小説 第99作『まんぷく』。今や私たちの生活に欠かせないものとなった「インスタントラーメン」を生み出した夫婦の知られざる物語。何度も失敗してはどん底から立ち上がる"敗者復活戦"を繰り返した末、二人は世紀の大発明へとたどりつく――人生大逆転の成功物語。

ありがとう、安藤サクラ

まんぷくのヒロイン。長谷川博己が演じる主人公・立花萬平の妻・立花福子役。1986年2月18日、東京都生まれ。2007年、映画「風の外側」で本格的に俳優デビュー後、映画やドラマで活躍。「愛のむきだし」「かぞくのくに」「愛と誠」「0.5ミリ」などに出演し、10以上の映画賞を受賞。2014年には「百円の恋」で第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するなど、その演技力は高く評価されている。NHKドラマでは『ママゴト』(BSプレミアム)で主演。

アレを買え、コレを買えって、世の中がうるせぇんだ。

 

 

アレを買え、コレを買えって、世の中がうるせぇんだ。

 

 

 

 

 

 

引っ越した。初めての一人暮らし。生活をする為に必要なものがいっぱいだ。

 

 

まず何より、食べなきゃ死んでしまう。そこら辺の雑草とか虫とかを食べる訳にはいかないから、米を買おうか、野菜を買おうか、肉を買おうか。食べやすく、美味しく頂く為に炊飯器を買おうか、包丁を買おうか。フライパンを買おうか、調味料を買おうか。食材が腐ったらいけねぇ。冷蔵庫を買おうか。すぐに温められたら便利だ。レンジを買おうか。料理をしたら汚れてしまった。洗剤を買おうか。スポンジを買おうか。除菌のアルコールスプレーを買おうか。洗い物の水を切らなくちゃ。水切り用のカゴを買おうか。料理を乗せる皿が必要だ。箸が、スプーンが。お肉の臭みを取るのにナツメグは…まだいらないか。米に虫がつかない様に虫除けはいるのか…??

 

あぁ、服を洗うのに洗濯機が必要だ。洗剤を買おう。柔軟剤もあった方が良いだろう。洗濯ネットはいるのか?洗った服を干す為に、物干し竿はいる。ハンガー、洗濯バサミ、買っておこう。ベランダ用のサンダルは?乾いた服はどこにしまおう。棚が欲しいな。冬服はかさばるし、大きい収納で、靴下・パンツは小さい収納。分けた方が良さそうだ。買いにいこう。虫除けは入れといた方がいい??

 

寝るとこはベッドにしよう。ベッドフレームにマットレスに掛け布団、マクラ。それぞれにカバーも用意しなきゃ。夏用、冬用、春秋用意…。カビ防止に湿気を吸うシートはあった方がいい?布団の圧縮袋は?寝る前に携帯をいじるから近くにコンセントが欲しい。延長コードを買おうか。読書のためにライトも買おうか。

 

 

シーンとしてて、寂しいから面白くないけどテレビでも買って流しておこう。テレビ台も必要だ。リモコンの電池が切れた。単三?単四?フローリングが硬くて痛い!カーペットが欲しい。併せてズレ防止のシートを買っておこう。もっとくつろぎたいからソファも買おう。クッションもあったらいいだろう。

 

カーテンとレースにも機能があるのか。遮光、遮熱、防炎、UVカット、形状記憶…どれが優先?テーブルは冬も使えるようにコタツ付き。直ぐにお湯を沸かせる電気ケトル。小さめの勉強机に椅子。お風呂にも低めの椅子が欲しくなってきた。節水のシャワーヘッド?どういう仕組みだ。大阪市の水道ってどう?浄水器はマスト?

 

 

今の時代、ネットはもはや衣食住の全てに関わる。キャリアは高くつくから格安SIMに乗り換えよう。でもギガが少ないからWi-Fiも契約しないと。Wi-Fiは据え置き?ポケット?プロバイダーはどこがお得?スマホケースが汚れてきたなぁ。充電器が断線した!イヤホンもいよいよ調子が悪い。

 

 

あれ、部屋が汚れてきた。掃除機を買おう。フローリングはウェットシートで、それを付ける棒もいる。カーペットはコロコロの方が取れやすい。替えの分も多めに買っておこう。机はウェットティッシュでサッと拭く。ベッドにファブリーズをシュッシュッしといた方がいい?寝ている間に菌が増えるっていうもんな。

 

排水溝が臭うぞ…トイレもくすんできた…お風呂場にカビが…え、洗濯槽にもカビ?あぁ、洗剤、洗剤、洗剤、薬品、薬品、薬品。トイレが臭う。玄関も臭う。部屋も…?消臭、消臭、消臭、アロマ?ディフューザーってなんだ?

 

 

生きてるだけで臭くなるんだぜ。お前、臭いと嫌われるぜ。消臭しろよ。ヒゲが伸びてみっともねぇ、剃れ。5枚刃だから剃り残しが少なくて肌にも優しいぜ。歯と歯の隙間の歯垢は歯ブラシじゃ届かねぇよ、歯間ブラシを買いな。

 

 

 

おいおい、いつからその服着てるんだ。雑誌を読んで流行りに乗ったベタな格好でもしてろよ。

 

コンタクトは手で洗うより気泡で洗った方が綺麗なんだ、この容器と液で自動で洗ってくれるから買いなさい。

 

 

いつかゴキブリが出た時にどうしますか?手で潰せますか?いざという時に、この薬品を買っておきましょう。

 

  

 

 

 あぁ、商品がありすぎる。大袈裟な広告で煽って煽って、どうにかこうにか買わそうとしてくる。便利そうだな、と思ってこの間は「片栗粉専用の容器」を買ってしまった。

 

 

マイナスイオンがどうとかブルーライトがどうとか次亜塩素酸がどうとか、よく分からない言葉で、あたかもそれが無いと死んでしまうみたいな口ぶりで脅してくる。

 

コレが無いと不便でしょ?アレがないと大変でしょう?とコッチをその商品がないと何もできないヤツだと高を括っていやがるんだ。

 

 

本当にいるのか?と疑いつつ、結局は不安になって買ってしまう。知らぬ間に便利で要らないものが増えていく。消費社会の奴隷。

 

 

 

もう、騙されないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝てる時に嫌な夢を見ると、覚えてなくてもストレスが溜まるんです。でも大丈夫。この良い夢パットを枕に敷くと、あら不思議、良い夢しか見なくなってストレスが全くなくなるんです!今なら良い夢パット用カバーと専用の脳波計測器をセットにして……」

 

「買った方が良いのかなぁ…」