大を小で流す。

往往にして、大は小で流します。

僕はもう「世界で一番旨い食べ物」を食べることはできない。

 

 

世界で一番旨い食べ物は「カップヌードル ミルクシーフード味」である。

 

 

シーフード味も勿論旨い。しかし、シーフード味はミルクシーフード味への序章に過ぎない。シーフード味の完全体はミルクシーフード味なのだ。シーフード味はシーフードエキスの強烈な旨味と塩味がいささか刺々しく舌に突き刺さる。そこにミルクの羽衣を纏わせ、優しく、まろやかな舌触りにすることに成功したのがミルクシーフード味だ。その舌触り、喉越しはまるで絹だ。そのことから日清の商品開発部は完成当時、ミルクシーフード味と名付けるか、シルクシーフード味と名付けるかで一悶着あったとかなかったとか。そんな噂があるとかないとかなのである。

 

 

そんな訳でカップヌードルのミルクシーフード味が世界で一番旨い食べ物なのだが、タイトルで僕はもう食べられないと書いた。それは何故か。

 

ミルクシーフード味は期間限定の味だから?否、確かに期間限定の味ではあるが毎年寒くなるとコンビニで発売されている。もう二度と手に入らない、という意味ではない。

 

 

ただ単にミルクシーフード味を作って食べるだけでは、それは単なるミルクシーフード味なのだ。つまり、ミルクシーフード味をポテンシャル以上のモノにする条件、環境があるということで、その条件や環境が、もう再現できないのである。

 

 

一言でまとめると、それは青春だ。青春がカップヌードルのミルクシーフード味を天下無双へと至らしめる。

 

 

 

高校時代。季節は、冬。

17時の暗さにも驚かなくなった頃。

ハードなトレーニングをこなした日の部活帰り。

身体に重く残る疲労感。

同じ方向の部活仲間とふざけながら自転車で坂を下る。

何が楽しいのかずっと笑いあっている。

お腹が空いている。

空いてるなんてもんじゃない。

空腹で死にそうだ。

そして防寒具を容赦なく突き抜けてくる寒気。

手袋の中の指先はちぎれそうなくらい冷たい。

光に集まる虫のように、気がつくといつものコンビニに吸い寄せられている。

カップヌードルのミルクシーフード味を購入。

お湯を注ぐ。

コンビニの前で待つあの永遠の如き3分。

麺や具に水分が戻り、香りが立ってくる。

あぁ、今すぐ食べたい!

タイマーを確認するが、まだ1分45秒。

もしも僕がアインシュタインだったら、この無限に思える3分から相対性理論を着装したに違いない。

ついに3分のカウントダウンが終わる。

口と手を使って割り箸を割るのがいただきますの合図だ。

しかしあと少し、焦らされる。

混ぜなければならない。

混ぜている時、脳は、舌は、数秒後の幸せを知っている。

もの凄い勢いで唾液が溢れ出る。

その唾液をゴクリと飲み込み、よくスープに絡ませた縮れ麺をズルズルズルっと一気に胃に放り込む‼︎

 

空腹にぶち込まれるジャンクフードの旨さは改めて表現しなくともご存知だろう。

加えて凍えた身に沁み渡るミルクの温もり。

その旨さ、天衣無縫。

 

ちょこんとウニを乗っけた肉寿司よりも、黒トリュフを贅沢に削ったクリームパスタよりも、鮑をとろとろに煮たやつよりも、最高級A5和牛のシャトーブリアンよりも、4代目の職人が江戸時代から代々受け継がれている秘伝のタレにつけて備長炭で焼き上げた鰻の蒲焼よりも旨い。全部食べたことはないけど分かるのだ。

 

 

極限状況で仲間と食べるカップヌードルミルクシーフード味は、もはや食事を超えて「喜び」だからだ。人間が生物として持っている「生きる」という本能にダイレクトに伝わるのだ。

 

 

今、何の苦労もなく、ただ腹が減ったという理由で食べるカップヌードルミルクシーフード味は、勿論旨いが、その旨さはちょうど「海水浴ではしゃいで昼過ぎに休憩中友達が食べ始めたポテトチップスうす塩味の一口ちょーだい」くらいである。

 

 

 

 

あぁ、書いていると思い出してきた。あの感動を。ここはしばし、僕に感謝させてください。

 

 

ありがとう、人口添加物。

ありがとう、カップヌードル

ありがとう、日清食品

ありがとう、安藤百福

日清食品の創業者。「カップヌードル」の開発者として知られる。

ありがとう、まんぷく

連続テレビ小説 第99作『まんぷく』。今や私たちの生活に欠かせないものとなった「インスタントラーメン」を生み出した夫婦の知られざる物語。何度も失敗してはどん底から立ち上がる"敗者復活戦"を繰り返した末、二人は世紀の大発明へとたどりつく――人生大逆転の成功物語。

ありがとう、安藤サクラ

まんぷくのヒロイン。長谷川博己が演じる主人公・立花萬平の妻・立花福子役。1986年2月18日、東京都生まれ。2007年、映画「風の外側」で本格的に俳優デビュー後、映画やドラマで活躍。「愛のむきだし」「かぞくのくに」「愛と誠」「0.5ミリ」などに出演し、10以上の映画賞を受賞。2014年には「百円の恋」で第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するなど、その演技力は高く評価されている。NHKドラマでは『ママゴト』(BSプレミアム)で主演。